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熊本地方裁判所 昭和43年(ワ)267号 判決 1970年2月27日

原告 全逓信労働組合

被告 牧瀬勝彦 外一二名

主文

各被告は、原告に対し、それぞれ、別表(一)の各被告名下に記載の金員およびこれに対する被告牧瀬については昭和四三年四月一八日から、その余の被告についてはいずれも同月一七日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「各被告は、原告に対し、それぞれ、別表(一)の各被告名下に記載の金員およびこれに対する被告牧瀬については昭和四二年二月二八日、被告藤木については同年三月二三日、その余の被告についてはいずれも同年四月七日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告ら

「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は郵政労働者の労働条件の維持・改善ならびに相互扶助等を主たる目的として組織された労働組合であるところ、被告らはいずれも郵政職員で原告組合の組合員であったが、被告牧瀬は昭和四二年二月二七日、被告藤木は同年三月二二日、その余の被告はいずれも同年四月六日、それぞれ原告組合を脱退した。

(二)  被告らは、いずれも原告の組合員当時、原告の機関決定に基づく組合活動を理由として、郵政当局からそれぞれ懲戒処分を受け、別表(二)支給目標の支給事由欄記載の期の昇給を一期延伸された。

そこで、原告は、別紙規約等目録記載の原告組合犠牲者救済規定(以下救済規定という)およびその施行細則(以下施行細則という)に定めるところにより、各被告に対し、それぞれ、右昇給延伸に対する補償金として、別表(二)支給目録の支給日欄記載の日に、同表支給額欄記載の金員を支給した。

(三)  もともと、原告組合の犠牲者救済制度は、原告組合が、郵政当局の弾圧によって組合員のこうむった損失を可及的に填補することにより、組合員の動揺を防止し、その団結を維持・強化するために設けられたものである。従って、救済規定第八条第二号は「その事由(補償事由)発生の月より組合員としての資格を有する間」補償を行なう旨定めているが、ただ施行細則第一五条によれば、支給方法として、当該組合員が昇給延伸後六〇才まで在職し、その間引続き昇給延伸による金銭上の損失をこうむるものとして、その間の年数(六〇才から補償金支給期該当月の年令を差引いたもの。以下支給基礎年数という)を補償金算定の基礎とし、一括前渡の方法をとっているので、同条によれば補償を取けた組合員が脱退・除名等により原告組合を去る場合には、その割合に応じた金額を返戻しなければならないことになっており、返戻の割合は、支給基礎年数から組合在籍年数(補償金支給期該当月から原告組合を去るまでの年数をいう。但し一年未満は一年とする。以下同じ)を差引いた残余の年数による比率とする旨規定している。

(四)  よって、各被告が原告に返戻すべき補償金は、

返戻すべき補償金=(支給補償金)×〔{(支給基礎年数)-(組合在籍年数)}/(支給基礎年数)〕

の算式によって算定すべきところ、各被告の生年月日・補償金支給期該当月の年令・支給基礎年数・組合在籍年数がそれぞぞれ別表(三)記載のとおりであるから、各被告が原告に返戻すべき金額は別表(一)各記載のとおりとなる。

(五)  そこで、原告は、各被告に対し、それぞれ、別表(一)記載の金員およびこれに対する各被告が原告組合を脱退した日の翌日である被告牧瀬については昭和四二年二月二八日、被告藤木については同年三月二三日、その余の被告についてはいずれも同年四月七日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

(一)  請求原因(一)および(二)の事実は認める。

(二)  諸求原因(三)の事実のうち、原告組合の規約等が別紙規約等目録記載のとおりであることは認めるが、その余の事実は争う。

(三)  請求原因(四)の事実のうち、各被告の生年月日は認めるが、その余の事実は争う。

三  被告らの抗弁

(一)  原告組合の補償金返戻規定は、被告らが、原告組合から自由に脱退し、原告組合以外の労働組合を結成しまたはこれに加入することを制約する意図をもって制定されたものであり、被告らの右自由を著しく制限しようとするものであるから、被告らの団結権を違法に侵害するものというべく、公序良俗ないしは憲法第二八条に違反し、無効である。

(二)  公共企業体等労働関係法第一七条第一項によれば、郵政職員は争議行為を禁止されているにもかかわらず、原告の犠牲者救済制度は、違法な争議行為を原因とする処分によりこうむるべき財産上の損失を後刻必ず填補する約束のもとに、あえて組合員に違法な争議行為を行なわしめるためのものであり、その給付の目的が公序良俗ないしは社会の倫理観念に反するものであるから、原告が被告らに対し一旦本件金員を支給した以上、民法第七〇八条によりその返還を求めることはできないものである。

(三)  仮に、以上の主張が理由がないとしても、被告らは、いずれも、特定局を争議拠点とするいわゆる部分ストに、原告の指令に基づき参加し、これを理由に処分を受けて昇給延伸の損害を受けたものであるから、この損害は、組合員平等取扱いの原則により、全組合員が平等に負担すべきものであり、被告らは原告に対し、救済規定があると否とにかかわらず当然に右損害の填補を請求できるものというべきである。そうでないとしても、原告の犠牲者救済制度はその実質は行政処分を保険事故とする相互保険であるというべきであって(被告らはいずれも組合員である間、規定に基づき、一定額の資金即ち保険料を納付した)、被告らはいずれも保険事故である行政処分を受けたのであるから当然その損失の填補を請求できるものである。

そうだとすれば、被告らの原告に対する昇給延伸による損害補償請求権は、被告らの同意のないかぎり、原告の機関の決議をもって一方的に奪うことのできないものというべきところ、原告は被告らが保険に加入後ないしは損害補償請求権取得後である昭和三六年七月になって、新たに原告主張の返戻規定を制定したにすぎないから、右規定は被告らに対し何ら効力のないものである。

(四)(1)  仮に以上の抗弁が理由がないとしても、被告牧瀬は、昭和三六年三月一八日、佐賀県小城郵便局における原告組合の勤務時間内一時間くいこみ職場大会に同組合員として、被告藤木は、同日、熊本県菊地郡大津郵便局における原告組合の勤務時間内一時間くいこみ職場大会に原告組合城東支部執行委員として、被告高田は、同日、鹿本郡植木郵便局における原告組合の勤務時間内一時間くいこみ職場大会に原告組合城北支部執行委員として、被告田中・同大津山・同木庭・同小井手・同野口・同豊田・同源・同松永・同原は、昭和三八年二月一五日、山鹿郵便局における原告組合の勤務時間内一時間くいこみ職場大会に同組合員として、被告渡辺は、前記植木郵便局および山鹿郵便局における職場大会にいずれも原告組合城北支部長として、それぞれ参加し、別表(四)処分内容欄各記載の懲戒処分を受け、同表記載の各損害を受けた。

(2)  右各職場大会は、公共企業体等労働関係法第一七条第一項に違反する違法な争議行為であるところ、右争議行為は、原告組合の中央執行委員長である宝樹文彦ら原告組合の役員が計画したもので、同人らは、これを実施させると必ず大量の行政処分を誘発し、被告ら組合員に少なからず損害を与えることを十分認識しながら、被告らに対しては、労使の団体交渉の経過などにつき十分な説明も行なうことなく、ただ当局側に対する敵がい心をあおることのみ教宣し、組合員の自由に表明された多数意思に基づくことなく、これが実施を指令し、実施に当っては、オルグ等を派遣して、いわゆるピケを張り、あるいは監視させる等被告らの行動を制約し、または、争議によってこうむる損失については救済規定により十分補償する旨被告らを欺罔して、もって、被告らに前記争議行為を行なわせて、違法に前記損害を与えたものである。

(3)  前記宝樹は中央執行委員長として原告を代表し組合業務を統轄しており、その他の組合役員もそれぞれ組合業務を分掌しているから、原告組合の役員がその地位において行なった不法行為は、中央執行委員長については民法第四四条の類推適用により原告自体の不法行為として、その他の者については民法第七一五条により使用者として、いずれにしても原告においてその損害を全部賠償すべきである。

(4)  よって、各被告は、原告に対し、昭和四三年一〇月二日の本件口頭弁論期日において、被告らの右損害賠償債権と原告の本件債権とを対等額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)を争う。

(二)  抗弁(二)を争う。

(三)  抗弁(三)のうち、被告らが原告の指令に基づく組合活動を理由に処分を受け昇給延伸の損害を受けたこと、被告らがいずれも組合員である間規定に基づき一定額の資金を納付したこと(但し保険料ではない)、原告が昭和三六年七月に補償金返戻規定を制定したことはいずれも認めるが、その余については争う。

(四)  抗弁(四)を争う。但し、(1)については、別表(四)記載の被告らの各損害額を争うほか認める。(2)および(3)については、宝樹文彦が原告組合の中央執行委員長であり、組合を代表し、組合業務を統轄していることは認めるが、その余の部分は争う。

第三証拠関係<省略>

理由

一  原告が郵政職員によって組織された労働組合であること、被告らが、いずれも原告の組合員であった当時、郵政当局から原告主張のとおりの懲戒処分を受け、原告主張のとおり昇給を延伸されたこと、その結果、被告らが、いずれも原告から、救済規定および施行細則の定めるところにより、右昇給延伸に対する補償として、それぞれ、原告主張の日に、原告主張の額の金員の支給を受けたこと、被告らが、いずれも原告主張の日に、原告組合を脱退したこと、原告の組合規約、救済規定および施行細則に別紙規約等目録記載のとおりの各規定があること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

ところで、労働組合が「組合員が組合機関の決定に基づき組合活動を行なったことにより損失をこうむった場合には、組合において一定限度でこれを補償する」旨のいわゆる犠牲者救済規定をもうけながら、当初、右規定に基づいて補償金の支給をうけた者がこれを返戻すべき場合に関するとりきめを欠いていたところ、後日組合が右規定を改訂し、「この規定によって補償金の支給をうけた者に一定の事由が発生したときは、組合はその者に支給した補償金に対する一定の割合による金額の返還を求めることができる」旨のいわゆる返戻規定をもうけた場合に、既に補償金の支給をうけ或いはまた支給すべき事由がありながら未だ支給をうけていない者に対しても、当然に右返戻規定の適用があるかは必ずしも疑問がないわけではない。ところが、別紙規約等目録記載のとおり、本件にあつては、原告組合は昭和三六年七月二〇日救済規定・同施行細則を改訂し、同細則第一五条(六)として「補償金の支給をうけた組合員に脱退・除名等の事由が発生したときは、一定の割合による金額を返戻しなければならない」旨の規定がもうけられたところ、別表(二)支給目録によつて明らかなように、本件被告らのうち、被告牧瀬勝彦・同渡辺保之(第一回分)については、補償金の支給事由が昭和三六年七月(日時不詳)に発生しているから、この返戻規定が右両名に適用があるかが問題となるわけである。しかしながら、一般に、返戻規定がもうけられる前後において、補償金の性格・金額等に格段の相違が存しない限り、既に補償金の支給をうけ或いはまた支給すべき事由がありながら未だその支給をうけていない者に対しても、返戻規定の適用があるものと解するのが公平の理にかなうばかりでなく、前掲昭和三六年七月二〇日改訂にかゝる救済規定(乙第六号証の一)には、その末尾に経過措置として「既に救済事由が発生しておりながら、事務手続上の関係からこの規定改訂の日以前に申請できなかつた者についても、この規定を適用する」との規定が存し、そうすると、前記被告牧瀬・同渡辺についても返戻規定の適用があるものと解せられるから、結局被告ら全員につき脱退・除名等の事由が存する以上、特段の事情がない限り、原告組合は被告ら全員に対し、さきに支給した補償金について所定の割合による金額の返還を求めうるものといわなければならない。

ちなみに、昭和四〇年八月二八日改訂の現行救済規定(乙第八号証)においては、支給方法も救済規定のなかに移されて、施行規則も廃止され、返戻規定も設けられていないが、これは右規定自体から明らかなとおり、同規定が従前の一括前渡の方法を改め、被補償者が組合員である間に限つて一年毎に逐一補償していく方法をとつたことと、同規定は原則として改訂日以後の犠牲者救済について適用することにしたことから、同規定による被補償者においては、返戻を求める場合がなくなつたためであること、従つて、原告が現行規定施行前に一括前渡の方法により支給した補償金につきもはや返戻を求めない趣旨ではないものというべく、もとより前記判断の妨げとなるものではない。

二  ところが、被告らは、被告らの抗弁(一)記載のとおり、前記返戻規定は公序良俗ないしは憲法第二八条に違反し無効であると主張するので、この点について判断する。

もとより、労働組合員が、組合から脱退し、組合を結成しまたはこれに加入する自由は尊重されるべきところ、本件返戻規定の制定が組合員の原告組合からの脱退を間接的にもせよ抑制しようとする意図を包含しており、そのために事実上組合員に脱退の自由を抑制する効果があることは否定しうべくもないが、労働組合が組合の分裂を防ぎ、自己の組織を防衛しようとすることは当然であるし、労働組合が、組織防衛の必要上、自己の組合を脱退した者に対し、一定の不利益を課すことも、その方法・程度等において著しく不合理でない限りは是認されるものというべく、本件返戻規定は、前述した如く、組合活動によつて損失を受けた組合員を救済するに当り、便宜上一括前渡の方法をとつたことから、脱退等の事由があつた組合員に対し脱退等の事由があつた日以後の分につき返還を求めようとするものであつて、もともと脱退等に及んだ組合員は以後拠出金の負担をまぬがれるものであるし、返戻を求める価額・算定方法等も著しく不合理であるとはいえず、右返戻を求めることが不当に組合員の脱退の自由を侵害するものとは到底解せられないから本件返戻規定が被告らの団結権を違法に侵害し、公序良俗ないし憲法第二八条に違反するものであるということはできず、従つて、被告らの右主張は失当である。

三  次に被告らの抗弁(二)について判断する。

被告らは、本件に民法第七〇八条本文の適用があると主張するようであるが、同条は、本来、不法の原因のため給付行為をした者が、自らその行為が無効であることを主張して、その返還を求める場合に関する規定であるところ、本件においては、原告は、本件補償金の給付が無効であることを理由として、その返還を求めるものではなく、被告らが原告組合を脱退したため、原告の返戻規定に定める要件が被告らに具備するに至つたことを理由とするものであるから、その適用の場合を異にするばかりでなく、前掲救済規定第二条によれば、原告の犠牲者救済制度において救済の対象としているのは、組合活動により徴戒処分等を受けた場合のみならず、広く「組合機関の決定に基づく組合活動遂行中の死亡・負傷・疾病」等をも含むものであることが明らかであり、そうだとすれば、原告の犠牲者救済制度は、被告らが主張するように、違法争議を組合員に行なわせるために設けられたものであると断定するのは当らないというべきである。しかも、民法第七〇八条にいわゆる「不法」とは、民法第九〇条にいう「公の秩序又は善良の風俗」違反と同意義であつて、原則として、いわゆる強行法規違反の行為を含まないものと解すべく、公労法第一七条第一項は、もともといわゆる三公社五現業の職員にも憲法第二八条により保障されている労働基本権がその職務の公益性にかんがみ特に制限されているものであるから、原則として、同条項に違反する行為を原因とする給付行為に民法第七〇八条を適用することは相当でないものというべきである。

結局、本件に民法第七〇八条の適用があるとの被告らの抗弁(二)の主張はいずれの点からいつても失当であるといわざるをえない。

四  そこで、以下被告らの抗弁(三)について検討する。

被告らは、被告らのこうむつた損害は原告のいわゆる部分ストによるものであるから、原告は組合員平等取扱の原則により、救済規定のあると否とにかかわらず、当然に被告らの損害を填補すべき義務があるものと主張するが、およそ、労働組合がいわゆる部分ストを行なうかどうかは組合の自由に決定しうるところであると同様に、部分ストにより損害を受けた組合員に対しその損害を補償するかどうかも、労働組合が自由に決すべき事柄であつて、労働組合が当然にその補償義務を負うものと解すべき何らの根拠もないものというべきである。

また、被告らは、原告の犠牲者救済制度は、行政処分を保険事故とする相互保険であると主張するが、なるほど、右制度は、一見保険と類似する如き外観を呈するけれども、だからといつて、直ちに被告らの主張するような結論を導きえないばかりでなく、況んやそれが返戻規定の適用を排除するような性質のものであるとは到底解せられない。

結局、被告らの抗弁(三)も理由がなく失当である。

五  そこで、最後に、被告らの相殺の抗弁(抗弁(四))について判断する。

被告らは、いずれも原告に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有すると主張するが、仮に、被告ら各主張の原告の争議行為が、被告らが主張するように、違法な争議行為であつたとしても、被告高田・同豊田各本人尋問の結果によるも、被告らが原告組合役員の意思強制の下に、あるいはその欺罔に基づき、右争議に参加したものとは到底認められず(ちなみに、被告豊田本人尋問の結果によれば、被告豊田は、右争議当日平常どおり就労するつもりで同被告の勤務する山鹿郵便局に行つたところ、原告組合員のピケツテイングにはばまれ就労できなかつたというのであるが、反面、同尋問の結果によれば、同被告は結局当日自らの意思により原告組合の勤務時間内職場大会に参加したことがたやすく認められる)、そうだとすれば、被告らは原告組合を脱退するなどして原告の右争議に参加しない自由をもつていたものというべく、被告らが自らの意思に基づき、自らの責任において、原告組合の前記争議に参加したものである以上、被告らが原告に対し当該争議の違法をもつて、損害賠償の請求をなしえないことは明らかであり、被告ら主張の相殺の抗弁は、その余の点を判断するまでもなく失当である。

六  以上のような次第であつて、しかも原告の被告らに対する補償金返還請求権を否定すべき特段の事情も存しないから、被告らは原告に対し、本件各補償金のうち、被告らがそれぞれ原告組合を脱退した日以後の分については、各自その割合に応じた金額を返還しなければならない義務があるものというべきところ、各被告が原告に返還すべき金額は原告主張の算式によつて算定すべく、各被告の生年月日はいずれも当事者間に争いがなく、右各生年月日と前記各被告の支給事由発生年月(別表(二))・組合脱退年月日によれば、各被告の補償金支給該当月の年令・支給基礎年数・組合在籍年数が別表(三)記載のとおりであること、従つて、各被告は原告に対し別表(一)各記載の金額を返還すべきこと、が計算上明白である。

七  ところで、原告は被告らに対し別表(一)記載の金員の支払を求めるほかに、右金員に対する各被告が原告組合を脱退した日の翌日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるが、各被告の原告に対する本件補償金返還債務が、各被告の原告組合からの脱退のときを履行期とする期限の定めのある債務であると解すべき根拠はなく、その他右履行期についての主張もないから、その定めがなかつたとするほかないところ、原告が被告らに対しいずれも本訴状送達前に催告したことを認めるに足りる的確な証拠もない(もつとも、被告高田・同豊田各本人尋問の結果によれば、原告が、被告高田および被告豊田に対し、内容証明郵便により本件債務の履行を催告した、というのであるが、同証拠によるも、その年月日を確定することができない)から、被告らは本訴状送達の日以前において遅滞はなかつたものということになる。

そうだとすれば、各被告はそれぞれ原告に対し、前記金員に対する本訴状が送達された日の翌日であることが本件記録上明白である被告牧瀬については昭和四三年四月一八日、その余の被告らについてはいずれも同月一七日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金についてのみ、支払義務があるものというべきである。

八  よつて、本訴請求のうち、原告が各被告に対し、それぞれ、別表(一)各記載の金員の支払を求める部分はいずれも理由があり、正当としてこれを認容すべきであるが、右金員に対する各被告が原告組合を脱退した日の翌日である被告牧瀬については昭和四二年二月二八日、被告藤木については同年三月二三日、その余の被告についてはいずれも同年四月七日から各支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分については、本訴状が送達された日の翌日である被告牧瀬については昭和四三年四月一八日、その余の被告についてはいずれも同月一七日以降の部分の限度で理由があるので、この部分を認容すべく、その余の部分は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条・第八九条・第九三条、仮執行の宣言につき、同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斉藤次郎 石田実秀 堂薗守正)

別表(一)~(四)省略

別紙

規約等目録

(A) 規約

(目的)

第三条 組合は組合員の団結と相互扶助の組織とによつて左の事項を実現することを目的とする。

一 組合員の労働条件の維持改善

二 組合員の協同福利の増進

三 組合員の社会的地位の向上

四 郵政事業の民主化

五 民主的労働戦線の統一

六 世界の民主的労働者と協力して世界平和の確立

(犠牲者救済)

第五八条 組合は、犠牲者救済にあてるため全国大会できめる金額を積立てる。

2 犠牲者救済の運用は別にきめる。

(B) 救済規定

(目的)

第一条 この規定は、全逓信労働組合規約第五八条に基いて定める。

(救済の対象)

第二条 組合員が組合機関の決定に基いて組合活動遂行中、救済しなければならない事態の発生した場合は、次の種別により救済を行う。

一 死亡

二 負傷

三 疾病

四 解雇又は免職

五 解雇又は免職以外の行政処分

六 刑事事件

七 訴願及び民事事件

八 その他特に必要と認めるもの

(解雇又は免職以外の行政処分)

第八条 第二条第五号に該当するものに対して次の救済を行う。

一 停職減給されたものはその俸給及び諸手当より減給された相当額をその期間支給する。

二 昇給延伸の補償についてはその事由発生の月より組合員としての資格を有する間、細則第一五条の方法により補償を行う。

<但し昭和三六年七月二〇日改訂(同日施行、以下36年改訂という)後昭和三九年一〇月三一日改訂(同日施行、以下39年改訂という)までの間施行のものの第八条は後掲のとおり>

(資金)

第一六条 この特別会計の資金は月額六〇円を徴収する。

納入については組合規約第四二条第二号に準拠する。

(臨時資金)

第一七条 前条の外特に必要ある場合は、決議機関の決定を経て臨時資金を徴収する。

(C) 救済規定―36年改訂から39年改訂までのもの

(解雇又は免職以外の行政処分)

第八条 第二条第五号に該当するものに対して次の救済をする。

一 (前に同じ)

二 昇給延伸の立替金についてはその事由発生の月より組合員としての資格を有する間、細則第一五条の方法により支給を行う。

(D) 救済規定―昭和四〇年八月二八日改訂(同日施行、以下40年改訂という)によるもの

(昇給延伸の救済)

第四七条 負傷、疾病、行政処分、刑事事件により救済の適用をうけたものが定期昇給の延伸となつた場合は、次の各号により救済を行う。

但し負傷の四級、五級および疾病の四級については適用しない。

一 昇給延伸が発生した昇給期を基準として、以後毎年その該当期分をそのものが組合員である期間補償する。

但し給与改訂その他の理由により昇給延伸の事実が消滅した場合にはそのときから支給を打切る。

二 退職した場合、退職手当、退職一時金、退職年金に昇給延伸が影響した場合はこれを補償する。

三、四 (省略)

(昇給延伸補償の計算および支給時期)

第四八条 前条の適用をうけるものの本給昇給間差額に暫定勤務地手当の間差額を加えた額に、昇給延伸月数を掛けて得た金額にその額の百分の五を加えた額を延伸された定期昇給期に支給する。

但し延伸期数が二期以上ある場合はその期数分をまとめて支給する。

2 夏期手当、年末手当、年度末手当の支給日が該当する昇給期を延伸されたものには、その年度に支給された夫々の手当の支給率を昇給間差額に乗じて得た額をその都度支給する。

3 (略)

(支給停止)

第五二条 第四七条の適用を受けているものが脱退(退職、死亡を除く)又は除名された場合は第四七条乃至第五一条は適用を停止する。

<注 本改訂により施行細則は廃止されてその内容は救済規定中に移され、また返戻制度は廃止された>

(E) 施行細則―昭和三五年七月一三日改訂(同日施行、以下35年改訂という)前のもの

(昇給延伸の補償算出方法)

第一五条 規定第五条、第六条、第八条、第九条に基く昇給延伸補償については、次の計算方法により算出した額を一時金とする。

(イ) 昇給延伸の場合は普通の昇給経過期間で昇給したものとして計算した五年後の昇給額差額に昇給間差相当額に対応する暫定勤務地手当を加えて更に昇給延伸月数を乗じたものを基礎額とする。但し基礎額は五年毎に更新するものとする。

(ロ) 前項の基礎額に昇給延伸期数二期毎に五年後の昇給間差額の二カ月分を加えたものを延伸された月を支給月として、五カ年間を一期として毎期毎に五倍した額を一時金とする。

(ハ) 更に寒冷地手当を受ける組合員については、昇給差額にその割合を乗じて得た額を前項に準じて一時金に加える。

(F) 施行細則―35年改訂によるもの

(昇給延伸の補償算出方法)

第一五条 規定第五条、第六条、第八条、第九条に基く昇給延伸補償については別表(一)、(二)(省略)によつて算出した額を一時金として補償する。

(註) 1 年令は補償金支給期該当月の年令とする。

2 年数は六十才に至る迄の年数である。

3 間差額は別表(二)により求めた額とする。

(二)、(三)、(四) (省略)

(五) 寒冷地手当、隔遠地手当を受けるものについては、毎年その該当した場合の減額された相当額を支給する。

(G) 施行細則―昭和三六年七月二〇日改訂(同日施行、以下36年改訂という)によるもの

(昇給延伸一時立替金の算出方法)

第一五条 規定第五条、第六条、第八条、第九条に基く昇給延伸支給については別表(一)、(二)(省略)によつて算出した額を一時金として支給する。

(註) 1、2、3とも前に同じ

(二)、(三)、(四) (省略)

(五) 前に同じ

(六) 前各号により支給を受けたものが次に該当した場合は、その割合に応じた金額を返戻しなければならない。

(イ) 脱退(退職、死亡を除く)

(ロ) 除名

(ハ) 特別組合員(規約別表第一の特別組合員表<2>該当のもの)

(ニ) その他一時立替金を支給する理由が消滅したとき。

(ホ) 返戻の割合は、計算基礎となつた支給年数から組合在籍年数又は支給理由が消滅するまでの分(一年未満は一年とする)を差引いた残余の年数による比率とし六カ月未満は切すてる。但し特別組合員は外部団体の役職員となつたときとする。

(H) 施行細則―昭和三九年一〇月三一日改訂(同日施行、以下39年改訂という)によるもの

(昇給延伸一時立替金の算出方法)

第一五条 規定第五条、第六条、第八条、第九条に基く昇給延伸補償については別表(一)、(二)(省略)によつて算出した額を一時金として補償する。

(註) 1、2、3とも前に同じ

(二)、(三)、(四) (省略)

(五) (G)の第一五条(六)に同じ

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